主な適応疾患

聴神経腫瘍


疾患の概要

聴神経腫瘍は、聴神経鞘腫とも呼ばれ脳腫瘍の約10%をしめ女性にやや多く、大部分は小脳橋角部に発生します。“良性”の脳腫瘍で、神経を包んでいる膜、鞘(さや)の細胞から発生します。良性の腫瘍ですので、脳以外の他の臓器に転移したり、1‐2カ月で急激に大きくなることはありません。腫瘍が大きくなる速度には個人差がありますが、4年程度の経過をみると約20%程度の患者さんで腫瘍の増大を認めるとの報告があります。
最初に自覚する症状で最も多いのは聴力低下です。通常聴神経腫瘍は片側にできますので、腫瘍のできた側の耳が聞こえにくくなります。電話の声が聞き取りにくい、人ごみでの会話が聞き取りにくいなどの症状で気付くことが多いようです。耳がつまったような感じ(耳閉感)が現れることもあります。この時期に適切な検査を受ければ腫瘍が比較的小さな時期に診断ができます。しかし、腫瘍は徐々に成長し、大きくなると脳を圧迫するようになります。
聴力検査など耳鼻科での検査も必要ですが、聴神経腫瘍を早期診断するためにはMRIが必須です。造影剤を使ったMRIを行うことにより、直径数ミリの小さな腫瘍を正確に診断することができます。

治療目的

腫瘍がそのまま放置されると、大きくなって周囲の組織や神経を圧迫するようになります。このため三叉神経の圧迫、障害による顔面のしびれや小脳、脳幹の圧迫によるふらつき、歩行障害、あるいは水頭症の合併による意識障害などの症状が出てきます。
この時期まで進行すると、外科的治療が必要となってきます。そうなる前に腫瘍を縮小させる、あるいは増大を抑制する目的でガンマナイフ治療を行います。ガンマナイフ治療の対象となるのは、大きさが3センチ程度までの小-中等度の大きさの腫瘍です。
腫瘍が小さい場合(1cm以下)や高齢者では、まずは自然経過を見て良いと思われます。3cm以上の大きな腫瘍には手術摘出が適応となります。

治療方法

聴神経腫瘍の治療法として以前から行われているのは手術です。
耳の後ろの頭蓋骨を一部はずして顕微鏡による観察のもとに腫瘍を摘出していきます。3cmを超える大きな腫瘍や、それほど大きくなくても小脳脳幹への圧迫による失調症状や三叉神経症状が出現している場合には手術が適応となり、術後圧迫症状の改善が期待できます。ただ全身麻酔が必要であり侵襲も大きくなるため、高齢の方や全身状態に問題のある場合はリスクが高まるため慎重に適応を考えなければなりません。
一方腫瘍が3cmまでの中等度の大きさで脳の圧迫症状がない場合、ガンマナイフ治療が適応となります。
まず局所麻酔下にレクセルフレームを頭部に装着します。次に定位的に詳細なMRIを撮影します。撮影された画像はガンマプランと呼ばれる治療計画専用のコンピューターに取り込まれ、これを用いて治療計画を行います。具体的には腫瘍の存在する範囲を決定し、数種類の大きさのコリメーターヘルメットを用いて正確に放射線が照射されるように座標を決定します。
最後に照射する線量を決定します。その後計画通りに照射を行いますが、照射中に痛みなどを感じることはありません。治療時間は全行程で約3時間です。治療は1日で終了しますが、前後1日ずつ入院していただきますので、2泊3日の入院となります。
大きな腫瘍の場合、手術が適応になることは既に述べたとおりですが、顔面神経麻痺等の合併症を減らす目的で意図的に内耳道近辺の腫瘍のみを残して腫瘍を摘出し、術後残った腫瘍に対してガンマナイフ治療を行うという方法もあります。手術リスクは減少し、残存腫瘍の制御も安全に行うことが可能となります。

治療効果

ガンマナイフによる治療では、腫瘍が消失することはありませんが、約90%では、腫瘍が小さくなるか、あるいは成長しないという効果が得られます。聴力は60%程度で治療前の状態が保てます。
治療後3年を経過してからの再発はまれです。治療を行いますと年月を経るごとに腫瘍の縮小率が高くなっていきます。ただ一度低下した聴力を回復させることはできません。
手術摘出を行う際に必要な全身麻酔は、ガンマナイフ治療では不要ですので、全身状態に問題のある方や高齢者においても安全に治療を行うことができます。

問題点、その他

治療に伴う合併症として、顔面神経麻痺の発生率はガンマナイフ治療では0.2 %程度と外科手術に比べると極めて低い頻度です。
聴神経腫瘍特有の現象として、約60%の患者さんでガンマナイフ治療3カ月から2年後一時的な腫瘍の増大が認められます。この場合症状が悪化しない限りは追加治療を行わず、腫瘍が縮小してくるのを待つことが基本です。
聴神経腫瘍の数%は水頭症を伴うことが知られていますが、ガンマナイフ治療後出現してきたり、元々あったものが顕性化してくることがあります。歩行障害、認知症様症状、尿失禁などが主症状であり、この場合脳室から腹腔内へ髄液を皮下の管を通して流れるようにするシャント手術を行うことにより改善が期待できます。

症例1

72歳女性。4年前から難聴が出現し、MRI上右聴神経腫瘍を認めた。
画像上増大傾向を認めるためガンマナイフ治療を行った。
腫瘍体積は5.4mlで腫瘍辺縁線量12Gy (50% isodose)で治療した(左)。
治療2年後のMRIで腫瘍は縮小している(中)。5年後にはさらに縮小を認める(右)。

聴神経鞘腫

症例2 (一過性膨大例)

56歳女性。難聴で発症した。
腫瘍体積は2.4mlで腫瘍辺縁線量12Gy (50% isodose)でガンマナイフ治療を行った(左)。
6カ月後腫瘍内部は低吸収域を示し膨大している(左中)。
1年後のMRIで腫瘍の縮小を認める(右中)。
2年後のMRIで腫瘍はさらに縮小しガンマナイフ治療時よりもやや小さくなっている(右)。

聴神経鞘腫

監修: 山中 一浩(大阪市立総合医療センター 脳神経外科)